『時』『空』
――９１億年前って言ったって正確じゃない
だいたいそれぐらいだと思ってくれりゃいい
なんと言ったっておまえらの星の単位で
しゃべっているだけなんだから――
地球が誕生してから約４６億年って言われている
それより前のことってことだろう
あまりにスケールが違い過ぎると
突っ込むことも面倒くさくなる
はなしが始まってすぐに立ち去らなかったのはなぜだったのか
いまでも不思議で仕方がない
その時にあまりにも退屈していたって言うのが
理由だったのかもしれないけど
――感じられるっていうのは物だけさ
見えなかったり聞こえなかったり感じられないってものもあるけどよ
それもふくめてそこにあるかないかだけが世の中
でもよ 考えてみな
完全に停止しているものを感じることはできないんだぜ
動いているからこそ初めて物は存在できる ってわかるかい？
物が在るためには時間の流れが必要なんだよ――
そうだろうか？
置物だって写真だって静止していてもあるとは思うが
話の腰を折るほどでもないかもしれない
――物が在るためには時間の流れが必要だが
時間が流れるためにも物が在ることが必要なんだ
お互いがお互いを必要としているってこったな
ふたつがそろって初めて在ることできるってわけだ――
本当にそうか？
漫画の一コマ一コマを見て感じるものと
アニメを見て感じるものとは確かに違うとは思うけど
だからと言って漫画の一コマに
意味が無いとは思えないんだが
たしかに一コマの画像を見るということにも
時間経過が無いとは言えない
まあ こういった細かいところに突っ込むのは
やめておいた方が無難のようだ
――時間の流れと物の広がり
目の前を流れていく時間と悠久の繋がる時間
実体として認識できる物と何もないように感じられる空間
それらはどれも時間と空間の側面の一つでしかない
おれたち流に言えば『時』と『色』の一部を
おまえたちは感じているだけなのさ――
時間はさておき空間というと
無と有の組み合わせにしか感じられない
たしかに何もないという状態にしたって
無ってわけじゃないだろう
『時』や『色』なんて言葉にこだわる必要はないだろうが
個の状態認証に特定の呼び名を付けることは悪くは無い
『色』
どうやら『散歩の途中』の書き手は
仏教系の感覚があるんじゃないかな
もしくは ぼくもそうだけど
そういった環境の中で育ってきたとか
なんといっても日本語で書かれているってことは
日本という環境で育った可能性が強いものね
日本って国は宗教に関しては
独特の地域環境を持っている
神道・仏教・儒教なんてのがごちゃごちゃに混じりあって
独特の宗教観のある国だからね
もともと原始宗教なんてものは
世界中にある
世の中の不思議や自然の人知の及ばない
強大な力を『神』って概念で恐れ敬う
なんてことはそれこそ自然なこと
日本だってもとはそんな感覚が大勢を占めていたんじゃないかな
５００年代になってまず儒教っていうのが
日本に入ってくる
ほぼ時を同じくして仏教が
日本という島国のすごいところは
入って来た新しい考え方を
そのまま取り込まずに
じぶんたち流にアレンジしちゃうことだね
現在でも言われているけど
日本は『経済は強いけど政治は弱い』ってのが
昔からあったからかもしれない
宗教や思想なんていうのが
強く定着するかしないかは
その時代の為政者の力の大小が大きく左右する
そういったものを利用して国を治めるっていうのが
為政者の常套手段
でも 日本じゃ民間のほうが一枚上手
解釈をアレンジして
その効果を限定的にしちゃうんだからね
もう一度『色』
またまた脱線したけど
とにかく儒教も仏教も
古来の原始宗教とまじりあって
独特のものになっちゃったってこと
７００年代には仏教や儒教の影響の少なそうなものを選んで
わざわざ『神道』の神典ってことにしちゃったくらいだから
それでも かく『教え』のエッセンスだけは
しっかり押さえていくところは
さすがとしか言いようがない
よく言えば良いとこどり
悪く言えば曲解だけど
それなりの考え方を生み出しているからいいんじゃないかな
で 『色』だ
仏教で有名な
『色即是空 空即是色』からきてると思うんだ
なぜ『空』じゃなくて『色』なのか？
あくまでぼくの勝手な想像だけど
『空』っていうのは因と縁があってこその存在
だというところからきてるんじゃないかな
縁のない因だけを物だって定義しようとして
『色』ってことにしているような気がする
ちなみに『因』『縁』『果』の関係性って
人によってまちまちだから
一概に決めつけられないけど
『大乗入楞伽経』っていうのに
世の中の存在ってなんだ？
っていう問いかけの答えとして
『一切法（万物）は因縁生なり』
って書かれている
簡単に訳せば
すべてのものは（存在だね）は
因と縁があってはじめて存在するんだよ
ってことかな
だから物の総称を『色』とするって
じつは正しいかもしれないんだよ
