新天地 Ⅱ

メメント・モリ散歩の途中
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ニッチを求めて

――空中というものは少しはなしが違ってくる。

確かに植物にせよ動物にせよ

空中を生存エリアにしようと試みたものはいた。

だがいかんせん生涯を空中生活に適応させるには

多細胞生物たちは質量を持ちすぎている

そう重すぎたのさ――

そりゃそうだろう。

空を自由に飛び回っているように見える

鳥たちだって

じっさいのところは定期的に着陸しなければ

生きていけないんだから。

――その質量を空中に浮揚させるためのエネルギーは

莫大なものにならざるを得ない。

大気密度がもっと濃ければどうなっていたかはわからない。

ただその星の大気密度では

瞬間浮揚は可能でも空中滞在で

生涯を終えることの出来る多細胞生物は出現できなかった――

そういえば『鳥』ってどのくらいの時間

着陸しないで生きていけるのだろう?

考えたことは無かったが

きっと一生飛び続けってことはないんじゃないかな。

――同様なことが地中にもいえる。

今度は逆に密度が高すぎる。

地表の表面をもぐることはできてもそこで

生涯を終える高度な多細胞生物も

出現できなかった――

生物っていうのを

どこに基準におくのか

深く考えるとこの男のはなしにも

突っ込みどころはある。

もっとも『高度な』なんてことばを

入れているところを見ると

わかっているのかもしれないが。

――空中・地中とも

おれの前身ともいえる

バクテリアや微生物たちの世界でしかなかったということだな――

やはりわかっていたか。

突っ込まなくてよかったってところだな。

――大量絶滅のない穏やかな星だった

とはいっても気候変動や突発事項が

皆無ってわけじゃない。

大量にその時主流だった生物たちが

絶滅に瀕するときだってある――

現代でも地震や台風

それ以外にも種々の自然災害や

戦争なんかの人災と呼ばれる突発事項は

避けられない。

――そのニッチを埋めんが為に

世代交代が激しく行われるのも

別に不思議でもなんでもない。

そうして穏やかな

個々の種にとっては穏やかとはとても言えないだろうが

進化が行われていった――

ニッチって?

『ニッチ』よく聞くような気がするし

なんとなく使っているようにも思うけど

本当のところは何のことだろうね。

ぼくの持っている思い込みだと

『隙間』っていうのが

一番しっくりするんだけど。

生物学なんかでは

「1つの種が利用するあるまとまった範囲の環境要因」

って書いてあるけど

なんのことだ?

これは生物学に詳しい人に

聞いてもらったほうがいいと思うけど

イメージだけで書いていってみよう。

あるひとつの場所(環境のことだね)に

まず植物が侵攻していく。

もっともその前から

生命っていうものはいたんだろうけど

今のところ生物の定義を

目に見えるくらい大きな

多細胞生物ってことにしておこうよ。

経済で言えば

生産者・消費者・二次消費者の関係が

生物の世界にも当てはまる。

生産者として植物がある場所に侵攻していく。

その植物をエネルギーとする消費者

そう草食動物が侵攻。

その草食動物をエネルギーとする二次消費者

肉食動物が続いて侵攻。

その一群を称して『ニッチ』って

言うんじゃないかな。

もちろん植物も一種類だけじゃない。

その環境に合いそうな種類の植物が

ニッチの取り合いをおこす。

草食動物も肉食動物も同じこと。

数種、数十種、数百数千種類の

種族たちがニッチに流れ込む。

その中で『棲み分け』『競争排除』『食い分け』

なんてものがおこなわれていくってことなんだろう。

『棲み分け』はある程度

資源が豊かな場所で

すこしの好みの差をおたがい犯さないようにしていく

って感じだろうね。

『競争排除』は読んで字のごとく

縄張りの取り合い。

『食い分け』は資源の採取するところを

時間や空間でわけるってことかな。

夜と昼で採取時間を変えるとか

木だったら上のほうを食べるとか

下のほうを食べるとかして。

もっともどの形にしても

元の資源がある程度豊かでないと

成立しないところが

困ったところなんだけど……

生存可能ニッチ

さて、まず海という水たまりが

生物(しつこいけどある程度ぼくたちが観察できる生き物ね)

にとっての最適ニッチだったわけだ。

その中で棲み分けや食い分けができた

生き物たちはなんとか安住の地を

見つけられたってこと。

だけど、競争排除によって

追い詰められた種は

そのまま滅びるか、逃げるか

選択を迫られて地上に上がってきたってことだね。

当然まずは生産者としての植物が

そして後追いで草食動物、肉食動物と。

そこでまた棲み分け・食い分け・競争排除

排除された植物が新たなニッチへ。

その繰り返し。

地上も新天地とはいえ

一応有限の世界だからね。

いつかは広げられるニッチは

尽きていくだろうし

逃れていく場所は

より過酷な自然環境になっていく。

星だって安定期に入っているとはいえ

まだ変動を繰り返しているただ中。

対自然、対他生物の戦いは

続いていく。

エオが言うように

空中と地中はまだ空いているとはいえ

そこはそれこそぼくたちが認識できるほどの大きさの

多細胞生物たちのニッチにはなりえなかった。

そこをニッチとできる生物は

微生物と呼ばれる分類の生き物しかいなかったのだから。

初期のころは競争排除の原理から

すごい勢いで地上に生物が繁栄していく。

やがて地上がほぼ埋め尽くされた後

種の存続のための

『逃げる』という選択肢が

失われていったわけだ。

本当の意味での弱肉強食・生存競争が

始まったと言っても

いいんじゃないかな。

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