覇者と絶対者
――その時代の覇者は次代の覇者たりえない
その時代の弱者が
次代の覇者になる可能性が大きい
これはここまでの進化の歴史の必然。――
そんなものかもしれない
人類の歴史だけを見ていると
必ずしも納得できるものではないのかもしれないが
それでも時代の覇者は変転しているものだ
――弱者と強者では
進化のスピードが変わることが
そのもっとも大きな要因だ
強者は現状が続くことを目指し
弱者は現状が変わることを目指す――
成功者は現状を
維持しようとするのは当たり前だろうな
老人対若人の戦いに
似ているのかもしれない
――はじまりはニッチを広げることが目指された
次の時代では
限られたニッチの中での
まだ手の付けられていない要素を
エネルギーに変えることが目され
同一の要素を求めるものたちの間では
相手を倒すことで
己の居場所を確保することが目標とされた
いってみれば
おのれの居場所の確保が
目的だったわけだ
己の居場所さえ確保されれば
後はそこを守り続けることに普請する
それがここまでの構図だ――
そうだろうか
わたしの知っている人間なんて
自分の居場所を守ろうとする
おとなしい奴はいない
ある程度生活が安定すれば
そこでとどまればいいものの
よりいい生活
より多くの金と欲望に
際限のないやつらがほとんどなんだが
――そこにあるひとつの
概念が持ち込まれる
覇者が自分の居場所を確保するだけにとどまらずに
その時点での弱者を刈り取ってしまえば
おのれの存在を
脅かすものはいなくなるという
覇者としてあるためには
弱者が必要だが
絶対者としてそのまわりの存在全てを
捕食の対象でしかないとみなしたとき
初めてそのくさりが断ち切られる――
……
絶対者
人類が生物界の絶対者
ある意味では当たっているかもしれない
生物の生態に
詳しいわけじゃないけど
ぼくの知っている限りでは
満腹な時に
むやみに獲物を狩る肉食獣なんて
聞いたことは無いもの
もっとも 遊びというか娯楽の一環で
他の生物をもてあそんでいる姿なら
近所の猫たちで見かけるけどさ
そういう意味では
欲望に限りのない人類ってものは
絶対者としての資質を持っているのかもしれない
たしかに人類のせいで絶滅したとされる種は
少し調べただけでも
幾種類も出てくるんだ
マンモス・ドウドウ・モア
日本だとエゾオオカミとか
ニホンオオカミもそうだね
国連の主催の会合だと言われるIPBESの
（生物多様性及び生態系サービスに関する
政府間科学政策プラットフォームの略らしいよ）
発表だと
現在では約100万種類の動植物が
絶滅の危機にさらされているってことだそうだ
人類が誕生したのが
どの時代だったのかという検証には
いくつもの回答があるから
一概には言えないけど
アフリカで500万年ほど前に
誕生したっていうのが有力な説みたいだね
当時の人類っていうのを
良くは知らないけど
（なんといっても会ったことが無い）
よくぞこんな弱小生物が
混沌の自然界で生き延びたものだと思うよ
たしかに 道具を使うという必殺技は持
っていたにしても
ぼくだったら真剣に戦って
なんとか勝負になりそうなのは
子犬ぐらいだもんね
運動能力・索敵能力・戦闘能力
どれも三流以下の生物が
道具の使用というただひとつの武器で
生物界の主流に躍り出てくる
これってどこかおかしいような気がするよ
人類の台頭
進化のスピードの違いで
覇者と弱者の入れ替えが起こるってことは
『散歩』でもさんざん
言われているよね
覇者は現状維持を目指して
弱者は現状打破を目指す
弱者の進化のスピードが
上がるのは当然のこと
だけど 生物の形質の変化は
それこそ万の単位の年月がかかっちゃうんだ
では道具の進化ってものはどうだろう
道具の進化は時間単位が
一桁 二桁どころの話ではなく
短時間で進んでいくと思わない？
技術発展がどうのこうのじゃなくて
道具の形質を変えるのには
それこそ一瞬で出来てしまうんだから
しかも そのスピードは
幾何級数的に
速度を上げていっちゃうんだね
そして大昔の戦闘用道具といえば
ぼくらのイメージでは
こん棒とか槍を考えちゃうけど
それだけじゃないんだ
人類がもうひとつの道具を使いだすのが
今から200万年くらい前
この辺りで他の生物から
頭一つ抜け出すことに
なったんじゃないのかって思えるんだ
石やこん棒なんて物理兵器じゃなくて
エネルギー兵器を使いだすんだよ
物理的道具は人類以前にも
使用している生物はいたよね
道具を加工して使うという発想は
人類の専売特許かもしれないけど
だけど どうも
エネルギー兵器を使う生物というのは
人類だけみたいなんだ
『火』を使う生物
すくなくともぼくは他に知らないな
