シアノバクテリア
――宇宙の目的なんてものは勝手に考えればいい。
はなしを戻そう。
おれが先代から引き継いでから
10億年くらいは静かな時代だった――
引き継いだ?
なにをだれからどうやって?
本人は一貫した話をしているつもりかもしれないが
聞かされるほうにとっては
はなしが飛び回っているようにしか思えない。
――大地はまだ形成時の変動の激しさが残っていたし
大気組成もおれたちの影響が大きかったのか変化していく。
だが、唯単に次の世代に向けての準備段階。
それほど激動の時代ってわけじゃない――
この男、前身は『シアノバクテリア』だって
言っていたような気がする。
シアノバクテリアってのははじめて光合成を手にした
生き物と無生物の中間ぐらいの存在だったはず。
2~30憶年くらい前にいたんじゃなかったかな。
それで大気組成が変化して……
で、それがどうした。
――おれたち、おまえらの星で言う
シアノバクテリアがどれだけ大量に発生したとしても
詰め込まれすぎた大量の意を解放するにはその器は小さすぎる。
スプーンで海の水をくみ出しているようなものさ――
まあ、いい。
ようはシアノバクテリアなんて
役に立たないってことだな。
――少なくともバケツくらいの容量の容器を大量にか
もっと効率のよい排水システムが必要だ。
それだけいびつな星に詰めかけていた客
意の総量ってのは大きくなるときがあるからな――
聞き流してはいるが
どうにもはなしの本筋がみえない。
シアノバクテリアってのには
なにかもっと重大な意味があるのだろうか?
にしてもやはり
それがどうしたにはなるが。
――準備段階にしか過ぎない時代は
大地や気候状態の荒々しさとは別にして
静かなる喧騒という不思議な状態を続けていく。
おれたちにとって
外部環境の変化なんてものは微風にしか感じない。
生物の複雑化に比べればな――
ほとんどお手上げの状態。
こういうときは変に口を挟まないほうがいい。
――10億年ほどたった頃真核生物たちが初期の形を取り始める。
大量の解放を開始するための下準備が整ったのさ。
大地・大気の状態が変動の幅を狭めたことが
最大の要因ではあるが
予定調和だ――
どうやら歴史というより
地質学の方向性かもしれない。
もしく進化学かも。
問い過ぎて面倒くさくなってきたがもう一度書いておこう
「で、それがどうしたって?」
――真核生物が発生しだしたころから
少々世の中が騒がしくなってくる。
真核生物たちとおれの前身のシアノバクテリアでは
本質的にそのありようが違う。
おれたちは『個』という概念を
初めて持ちこんだというところでは相当異質ではあった。
だがその在りようは
在るように在る、為すがままに在るがままにだ。
回りが変化すれば自分も変化する。
外界の環境に合わせて変化し続ける。
最終的に種が在れば良いということがおれたちの発想だ――
そんなものかもしれないし
そうでないかもしれない。
こんなはなしは流しておくほうがいいだろう。
知らないことを判断するくらい
馬鹿げたことは無いのだから。
――だが、彼らは外界の変化に闘いを挑むという発想へ転換していく。
それまでは周りに自分を合わせていた生物が
自分に合うように外界を変えようとする方向性を持つようになったということだ。
セカンドへの道をまっしぐらというところだろう――
はなしの行く先は見えないが
この「在るがままに為すがままに」と
「外界を変えようとする意志」ってのはおもしろい。
遥か太古の昔から
このふたつの差異はあったってことだ。
――もちろん自然に解放されていく意の量より
シアノたちのように在るという概念を持ったものの方が
意の解放速度は速い。
誕生したときに内包している総量が大きいからな。
そして真核生物たちの意の内包量はバクテリアたちとは桁違いになる――
高等生物のほうが多くの『意』ってものを
持っているってことだろう。
この汲み出すとか解放するという感覚は
まるでわからないが。
適当に『シアノバクテリア』
いつかはこの『進化』ってものも
雑学のほうで書いてみようとは思うけど
今のところ他の勉強で忙しいから
いつのことになるかは
まったく未定だね。
だからうる覚えの知識だけで書いてみるから
間違っていたらごめんなさいってことで。
今はネットに自由につながれるから
ほとんどのものが簡単に調べられる。
いい時代だよね。
ぼくなんかが学生なんてものをしていた時代は
ひたすら図書館に通うぐらいしか
(お金があんまりなかったから本を買うのも
大変だったんだ。
それに特に専門書なんて
馬鹿げたくらいに高かったんだから)
なんて愚痴を言うようになったり
『昔は……』なんて言い出したら
もうすでに年寄りなんだよね。
『老害』って言われないように気を付けなくっちゃ。
さてここに出てくる
シアノバクテリアと真核生物。
シアノバクテリアは
今から25億年くらい前に
発生した生き物だったと思うよ。
35億年前
地球が誕生してから10億年くらいたったころに
すでにいたんじゃないかって言われているけど
このあたりだと
『生物』なのか『非生物』なのかってところが
もうひとつはっきりしていないようだね。
このシアノくん
なんといっても光合成ってものを
この地球に持ち込んだってことで
この地球の運命を変えた
偉人の一人に数えていいんじゃないかな。
ぼくたちも含めて
現存している動物のほとんどは
酸素を呼吸して活動を維持している。
ってことは酸素が無ければ
生きていられないってことなんだ。
でも考えたら不思議だと思わない?
酸素ってどちらかといえば
生物(生物だけじゃないけど)にとって
害のある成分のはずなんだ。
害っていうより劇薬って感じかな。
ものの変化を加速させる
魔法の成分。
このおかげで急激な進化が
起きたともいえるし
生命に短時間の寿命が与えられた
とも言えるような気がするね。
たとえば食べ物が腐るのだって
酸素のせいだって言えるし
鉄だって錆びるんだもんね。
適当に『真核生物』
この真核生物ってのは
たぶん正確な定義って無かったように
思うな。
定義っていうのか
その分類のしかたに
ちゃんとした線引きが。
定義的には
細胞内に『核』を持っているかいないか
言い方を変えれば
『核膜』があるのかないのかってことなんだけど
書いているぼくにもよくわからないんだ。
分け方としては
『真核生物』と『原核生物』に分けられるみたいなんだけど
そのなかにもこんどは
『生物』と『非生物』との境界があったりして……
たとえばだよ
今はやりの『コビット19』にしても
これってコロナウィルスの一種じゃなかったっけ。
ではウィルスは『真核生物』か『原核生物』か?
たしか核膜は無かったと思うけど
遺伝子情報を伝達する『RNA』はあるはずなんだ。
それよりもっと根本的な問題がある。
『コビット19』って
生物なの? 非生物なの?
ってね。
だからここに書かれているような
生物進化の過程での
上位互換のような言い方の場合は
細胞内に細胞小器官があるかないか
ってことだろうね。
細胞小器官を持つってことは
細胞に『分業化』の可能性を持たせた
ってところが大事。
生物の進化ってのは
特化した細胞が集まって
一個体をつくっていくことで
始まっていくんだから。
それが
進化なのか
特殊化なのかは知らないけど。