エーテルの肯定
科学は観測→検証→…… と進んで仮説
(今のところ正しいとされる)を生み出していく
ローレンツさんの時代
電磁気学としてはマクスウェルさんの仮説が
主流だったってことだね
そして もう一つ
『エーテル』という仮説も主流だったんだと思うんだ
もちろん デカルトさんの提示した
微細物質が宇宙を充満している という
単純な考えかたじゃなかったろうけど
なんらかの物理法則に従うモノが宇宙には満たされている
そういった考え方が一番 合理的だものね
なんといっても宇宙空間を光は飛んでくるんだから
エーテルの条件としては
この宇宙の中で絶対静止の存在ということが大前提
絶対静止という概念と言うよりも
宇宙はエーテルにすっぽり覆われているってことかも
動いているのは宇宙の中の星だとかで
エーテルっていうのはただそこにある
そういうことだろうね
もちろん 地球もその中を動いているわけだ
光はエーテルを媒質とする波
だとすれば
地球の運動方向に対して光の照射方向を変えれば
当然測定される光の速度は変わる
はずだったんだよね
そこで マイケルソンさんとモーリーさんが
地球というエーテルに対して動いている物体を使って
『エーテル』の存在を証明しようとしたんだ
地球という移動している物体から
いろいろな方向に光を発射して
その速度の測定をすることによって
『エーテル』を証明しようとしたってこと
ところが何度実験を繰り返してもどの方向に照射される光も
速度の変化は確認されなかったんだよ
科学の進歩は正しいとされる(今のところ)
仮説の立案 検証
不都合が出たときには
その不都合の再検証
仮説に適合できる理論の構築 そして 仮説自体への不信任
そんな具合で続いていくんだね
ようするに 『エーテル』仮説に
不都合な実験結果が出たってこと
だから まず第一段階として
不都合の出た光の速度の測定実験が
正しいのかどうかの検証がされたんだ
季節を変えたり 場所を変えたり
昼と夜のように時間帯を変えたり
何度も測定し直したんだけど
実験結果には間違いがなさそうだってことになった
と なると第二段階の
仮説に適合できる理論の構築が始まるってこと
前にも書いたけど
地球がエーテルに対して静止している とか
地球がエーテルを引っ張って動いている とか
ひかりはエーテルに対してではなく
光源の速さに対して速度変化を起こす なんて
どう考えても速攻で否定されちゃうような説も
真剣に考えられていたみたいだね
その中で唯一 『エーテル』仮説を維持できそう説が
物体はエーテルの中で
その圧力により運動方向に対して長さが
縮むってものだったわけだ
ローレンツ収縮
エーテルの中を物体が進む時に
その物体が進行方向に対して縮む ということは
当然 光の速度が変わっても距離が短くなるんだから
所要時間は同じってことになるよね
所要時間が変わらないために
どれだけ縮めばいいのかの縮尺も
数式として計算されたんだ
√(1-v2/c2) って
相対性理論ではよく出てくる数式
じつはこれが ローレンツさんが出した
エーテル仮説を肯定するための適合理論だったってこと
たしかに この割合で物体が縮めば
光の速度変化は測定できないんだ
その上 どれだけ縮んだのかを測ろうとしても
測定する物差しも縮んじゃう
だから 測定不可ってことになっちゃう
屁理屈のようにも思えるけど
ローレンツさん
なぜ物体が縮むのかについても
ちゃんと説明(数学的に)しちゃったんだよ
物体がエーテルの中を進んでいくと
質量が増加するからなんだって
この説明 もしかすると現在に生きている人間には
受け入れられるかもしれない
内容はわかっていなくても
特殊相対性理論が今のところ正しいとされている
仮説なんだから
物理に興味のない人でも聞いたことはないかな?
速度が増せば増すほど そして光速に近くなればなるほど
物の質量が増加するっていうはなしを
実はローレンツさん この時点で
特殊相対性理論の骨格に近い理論立てを
していたってことなんだ
ただ あくまでもエーテル仮説の肯定のための
適合理論構築が目的だったんだけどね
だから 不都合な実験結果に対する補完理論をたてても
また 次々と不都合が出てくることになっちゃった
なにより ローレンツさんの収縮理論だと
確かにエーテル仮説を擁護することはできるんだけど
もう一つの前提仮説 電磁気学の解釈が
複雑になりすぎるってことになっちゃうんだよね
ローレンツ変換
ローレンツさん
ゼーマン効果でノーベル賞を受賞しているように
本来は電磁波の研究に力を入れた理論物理学者
エーテルがどうのこうのというよりも
エーテルという仮説が正しいとして
その中での光(電磁波)の振る舞いについて考察した
そういうことなんだと思うんだよ
だから エーテル仮説に対する真偽よりも
マクスウェル方程式に破綻をきたす可能性のある実験結果
「光の速度がどの方向で測定しても一定である」
に対する合理的な理論構築をしようとしたんじゃないかな
だから マクスウェル方程式の解釈が難しくなる
ローレンツ収縮でエーテル仮説を擁護することは
本意じゃなかったのかもしれない
だから マクスウェル方程式を中心にして
光の速度がどの方向に照射されても同じになる理由を
数式をつかって説明しようとしたんだと思うんだ
それが 『ローレンツ変換』
もっとも 同時期に
フィッツジェラルドさんも
同じような数式を出しているけど
やはり科学者たちっていうのは
命題を与えられればなんとかしてしまう
凄い人たちなんだと思うよ
ローレンツ変換が発表されたのが1904年
特殊相対性理論が発表されたのが1905年
この辺りが 相対論(特殊相対性理論)は
アインシュタインさんの専売特許じゃない
そういったはなしが出てくるんだね
もっとも 相対論がだれの発案になるのかは
あまり問題じゃないとは思うけど
物理学で言えば
ガリレイ変換なんていうのは
ニュートン力学における相対論だろうし
哲学で言えば
立ち位置によって観測状態が変わる
なんていうのは
ギリシャ時代から言われていたんだから
話を戻そう
ローレンツ変換は 電磁気学を中心にして
エーテル仮説に対して出て来た
光の速度がどのように測っても同じである
という不都合な実験結果を適合させるための理論ってこと
理論としては成立するんだろうけど
ローレンツ変換の本来持つ意味を
理解できる人がどれだけいたのかは疑いたくなるね
量子力学のシュレティンガーさんや
ハイゼンベルグさんの提示した数式の
本来の意味を理解できた人が
どれだけいたのかと
通じるところがあるかもしれない
ローレンツ収縮では物の長さが変わるなんていう
大胆な仮説を提案したローレンツさんだけど
次のローレンツ変換の式では
なんと時間まで縮んじゃう って
とんでもない仮説を導入しちゃったんだから
その上
ローレンツ短縮の時点でも触れていた慣性質量の増加
特に光速に近くなった時の増加についても
結構詳しく書いていたらしいよ
現代のぼくたちには理屈として
素直に受け入れられそうな話だけど
当時としては
素直に受け入れられたかどうかは疑問だね
理論というか
数学で語られたローレンツ変換
マクスウェル方程式と
エーテルという二つの仮説を守るために
強引に組み立てられた理論
でも その変換式は
現状を説明するのには合理的だったんだ
ただ なぜその理論が成り立つのか を説明するのは
甚だ難解なものになっちゃったけど