双子のパラドックス
相対論に興味のない人でも
この言葉は聞いたことがあるんじゃないかな。
もっとも映画やアニメに出てくるのは
ウラシマ効果の方だから
誤解はあるかもしれないけど。
もともと相対論に
矛盾があるかどうかの検証に
アインシュタインさん自身が
提唱した『時計のパラドックス』
というのがあるんだけど
ランジュバンって人が
(有名な物理学者だよ)
双子を使ってそのパラドックスを
出題してから
このパラドックスが
『双子のパラドックス』って
有名になっちゃったんだね。
簡単に内容を書いてみると
双子の兄弟がいたとする。
兄さんはロケットに乗って
遠い宇宙に出かけて行って
帰ってくるんだ。
一方弟さんのほうは
地球にいて
兄さんの帰りを待っているってことだね。
さてその時
特殊相対性理論からすると
弟さんから見て
ロケットに乗っている兄さんの時間は
遅れるはずだよね。
そうなると兄さんが地球に帰ってきたとき
弟さんのほうが
歳を食っているはず。
ロケットの速度が速くなればなるほど
(光速に近くなったりすると)
その年の差は大きくなるってことになる。
(兄さんが帰ってきたとき
弟さんはもう死んでいるかもしれないんだよ)
一方兄さんから見てみよう。
特殊相対性理論は自分のいるところが中心。
兄さんにしてみれば
自分が停止していて
弟さんがロケットのスピードで
遠ざかっているのと同じこと。
ではどうなるのか?
兄さんからしてみれば
弟さんの時間が遅れるってことになる。
だから兄さんが地球に帰ってきたとき
弟さんより年を取っちゃっているはずなんだ。
これって矛盾(パラドックスでもいいけど)を
含んでるんじゃない?
兄さんはどうなるのだろう
双子のパラドックス自体は
論理展開に無理があるってことで
意外と簡単に解決されたらしい。
兄さんと弟さんが
もう一度同じ慣性系(地球だね)で
出会うってところが
特殊相対性理論を適用するには
無理があるってことだね。
ではロケットで出発した
兄さんが帰ってきたとき
じっさいはどうなっているんだろうか。
光速に近いような速度で
飛んで帰ってきたロケットは
まだいないから
実証としてはわからないってことなんだけど
ただ理論上と
身近な地球での重力差からくる
時間のずれを考えると
どうやら兄さんの方の時計が
遅くなるんじゃないかって
いわれている(たぶん)。
もっとも現在のところ
ロケットの速さは
それほど早くない。
(光速と比べるとってことだよ)
だからSF小説に出てくるような
凄い時間差にはならないと思うけどね。
ちょっと、またまた脱線すると
ロケットが地球の周回軌道に乗る速度は
秒速7.9km以上。
これは第一宇宙速度って言われている。
ロケットが地上から
地球の引力を振り切って
飛んでいくために必要な速度は
秒速11.2km以上。
これは第二宇宙速度っていうそうだ。
まだあるよ。
太陽ってのは地球なんかと
引力が桁違い。
だから太陽系から
外宇宙へと飛び出していくためには
秒速16.7km以上って
とんでもない速度が要求される。
これが第三宇宙速度と呼ばれるもの。
もっともこの第三宇宙速度を出すためには
燃料の消費が凄いことになる。
だから実際のところ
『ボイジャー』なんかが外宇宙へ飛び立つときには
ロケットの推進力だけじゃなくて
『スイングバイ』
(星の引力なんかのサポートを受けるって方法だね)
を使ってたみたいだけど。
それにしても秒速16.7km
光の秒速30万kmに比べれば
遅々たるもんだよね。
だから月から帰ってきた
アームストロングさんと
地上にいた人の年齢差なんて
無かったってことだよ。
ウラシマ効果
双子のパラドックスは
特殊相対性理論を適用するには
無理があるって書いたよね。
だからその矛盾はおきないって。
でも高速(光速に近いぐらいの)で宇宙旅行から帰ってきた
兄さんの時間は
弟さんよりゆっくりと流れてしまうということらしいんだ。
『ウラシマ効果』って日本では言われているけど
時間の遅れ(time dilation)現象ってところかな。
英語だとリップ・ヴァン・ウィンクル効果なんて
言ったりするけど
日本のSF作家が名付け親だったみたいだから
Urashima effectでも通用するみたいだね。
映画とかアニメで
題材に使われることもあるから
知っている人も多いとは思うけど
光速に近い速度で
宇宙旅行をした人は
はるか未来の地球に帰ってくる
っていう理論。
『猿の惑星』とか『2001年宇宙の旅』とか
アニメだったら『トップをねらえ』あたりが
有名かな。
なぜそんなことがおこるのか。
じつはこの設問
特殊相対性理論の問題みたいに見えるけど
じつは一般相対性理論の問題でもあるんだよな。
「高速で、宇宙旅行をして地球に帰って来る」
という設定は『加速』っていうものが入ってくるんだ。
一般相対性理論のひとつの柱
『等価原理』を思い出してほしい
重力系と加速系は区別がつかないって。
地上を一つの慣性系(仮に静止しているってことにしようよ)と
考えたときに
そこから兄さんの乗ったロケットは
光速近くまで加速することになる。
その後しばらく慣性系(同一速度)を進んで
地球に着陸するためには
また激しい減速をしなくちゃならないってことになる。
加速→慣性→加速
(加速系って言うのは
慣性系、今だったら地球との
速度差のことだから
加速も減速も加速系になるんだよ)
この過程を経ることになるよね。
加速・減速の時は一般相対性理論によって
時空間がゆがむ。
だから便宜的に慣性系とした地球から見れば
時間がゆっくり流れるってことだね。
ここが『ウラシマ効果』になるんだ。
途中で光速に近い慣性系にいることになる。
そのときは『双子のパラドックス』が
おきるんだけど
ただ光速に近い速度までの
加速・減速の一般相対性理論における
時間の遅れっていうのは
特殊相対性理論の時間の遅れとは
比較にならないくらい大きいってことらしい。
光速まではいかないけど
このウラシマ効果
正しいのかそうでないのかは
これからの研究を待つべきなんだろうね。
なんといっても
光速に近い速度を
現在のところ人間の手で
作り出すことができていないんだから。
ただそれがウラシマ効果と言えるかどうかは
議論の余地が残るだろうけど
じっさいに一般相対性理論の
時空の歪みによる時間の遅れっていうのは
観測されているんだよ。
有名どころだと
カーナビや位置情報で使われる
『GPS』情報があるよね。
GPS情報は地球上空をまわっている
GPS衛星からの電波を受けて
その情報を三角測量をすることで
位置を割り出しているらしい。
その精度を上げるためには
地上と衛星の時刻が
厳密に一致していないと
位置情報にズレがおきることになるんだそうだ。
GPS衛星が地上との相対速度だけがある
慣性系だとすれば
特殊相対性理論の出番。
周回衛星だから衛星自体に
加速は無いかもしれないけど
地球の中心からの距離が違うから
地球の重力の影響の大きさが違うところからすれば
そこは一般相対性理論の出番になるよね。
それ以外にも遠心力や
その他の要素はあるだろうけど
じっさいに衛星と地上では
時刻補正がおこなわれているんだそうだ。
もし補正がおこなわれなければ
一日当たり20kmも
位置情報がずれるってことらしいよ。
それ以外にも
スペースシャトルに搭載された時計が
地上の基準時計より
わずかに遅いという研究結果や
一組の原子時計の片方だけを
宇宙に送った時の
二つの時計も時間のずれができるという
実験もされている。
もっと身近なところでは
東京スカイツリーの展望台にある
光格子時計が地上のものより
進むって実験結果も出ているんだよね。